帰還の果て
昼から夜まで酒を飲まない知人とノンアルコールで過ごしたにも関わらず、
終電を逃した深夜。
10駅くらい歩いて午前2時くらいに地元のバーに着いた。
扉をくぐるといつものメンツがいる。まったく、よく懲りずに来るぜ・・・。
いつものって言っても4回目くらいなんだけどね。
しかも、向こうが俺を覚えているかは謎。
人生は霞の中を歩くようなもの - いつも空ばかり見てるから・・・の続き
ぶっちゃけ、小心者だから一人でバーに突入するのに気後れしてるんだけど、
店に入り、何事もなかったかのように奥の座席に座る。
「いらっしゃいませー」
「どーもっす。ビールお願いします」
イケメン店員に注文を頼み、ビールを飲む。もう一気に飲み干しそうになるが、人としてどうかと
思ったので、それはやめる。もったいないし。これが外飲みのいいところ。
店員さんが他のお客さんと会話してたので、
とりあえず、ビールにすべての神経を集中させる。
程なくして、間が空いたので、話しかける。
できれば、話しかけてもらいたかったけど、勇気出しました。
「いやぁ、終電なくなって、後楽園から2時間くらい歩いちゃいましたよ・・・」
「「「後楽園から!?2時間!!?」」」
うおっ、他のお客さん(常連)からも返答が来た。え、そんなか。
「絶対に道わからないし、そんな歩きたくないからタクシー使うわ」
「刃牙だったらGPS停止するよね」
と、全然違う話をしていた人たちが全て俺の話題で染まる。
ちなみにオーガじゃないし、そんな速度で歩いてないから、GPSは大丈夫です。
20分くらい地理的な話や交通的な話になってたんで、
割と徒歩帰宅は意味があったようだ。
まぁ、いい年して何してんだよって感じだが。
最初は「だいぶ歩きましたねぇ」くらいな感じで流されると思ったのだが、
ちょっと食い付きがよくて、テンションが上がる。
それからちょっと受けを狙って、
「都内なら、俺、地図いりませんよ」
などといってみたが「ははっ、そうっすね」と軽く流された。
トークは生もの。深追いはいけないなと反省しました。
それから客は少なくなり、俺と店員さんと短髪のお姉さん(多分年下だけど)の3人になった。
なぜか漫画のグロ表現の話になり、お姉さんの持論を聴くことになる。
常連の方で前回も前々回もこんな感じだった。
内容としては婉曲した表現じゃなくて、
むしろグロによって直接的表現に変えていっている昔の作品はすごいという感じ。
逆にあえてグロくしなくてもいいのにすることでより強いインパクトを与えているのがいいということも言っていた。
光クラブの話も少し振ってみたら、基本知識だったようなので、本当に深入りしないようにした。
にわかが立ち入って、実は何にも知らないですっていうのは割とうっとおしかったりするので、
引き際は肝心なんです。
それから小説・人間椅子の話になり、いつの間にか朝日が差していた。
お姉さんは話の最中、
「めっちゃ、目をパチパチさせてて、眠そうだったもんねぇ」
と、言ってきた。
意味合いとしては、俺が歩き放しだったので、疲れてるんだなぁということ。
話自体は普通に聴いてた。長かったけど。
自分が話すことに夢中になりながらも、こっちのことも見てくれたことに少しドキッとした。
(お、俺のこと見ててくれてる・・・)
誰でも見りゃわかるだろって話なんだけど、うっすらそんなことを考えてしまった。
店を出て時間を確認をした。朝の7時。ここまで来ると爽やかな朝だ。
孤独な経験でもいつか人に出会ったとき、役に立つときが来るかも知れない。
人との出会いがある限り、孤独なんていうものはないのかもしれない。
ひとりぼっちの夜も誰かの為になるのだから。